PROJECT STORY
プロジェクト
ストーリー
北海道胆振東部地震による北海道大規模停電の検証
国内初の全域停電。電力インフラの
「当たり前」を守る検証
2018年9月、北海道胆振東部地震で国内初の全域停電(ブラックアウト)が発生した。当時の経済産業大臣の指示を受け、OCCTOは中立・公平な立場で検証委員会を設置。世間の高い注目の中、電力の需要が高まる冬季を目前に、原因究明と再発防止策の策定に奔走した。短期間で原因の分析と報告を実施し、日本の電力網の強靭化に寄与するまでの軌跡を追う。
プロジェクトのポイント
「国内初の全域停電」という未曽有の事態。世間の注目が極めて高い中で、中立・公平かつ透明性の高い検証を実施した。
北海道の冬が本格化し、電力の需要が高まる時期を目前にした厳格な時間的制約。膨大なデータの分析から原因究明、再発防止策までを短期間で公表した。
ストーリー
2018年9月6日 国内初、全域ブラックアウト発生。組織の真価が問われる日
2018年9月6日の真夜中、北海道胆振東部で地震が発生した。そして、その影響で道内最大の苫東厚真火力発電所が停止したことなどを発端に、連鎖的に発電所が停止。北海道全域が一斉に停電してしまうという、国内初の大規模なブラックアウト現象が発生した。9月11日、当時の経済産業大臣からOCCTOに対し、原因検証の指示が下った。翌12日、さっそく全部署に検証チームの志願者募集がかかる。組織の総力を挙げた前例のないプロジェクトが始動した。

2018年9月15日 手掛かりは「紙の海」。0.02秒を追うデータ分析

チーム結成の翌日には、北海道電力との打合せが行われ、膨大な計測データの分析が始まった。分析チームが向き合ったのは、ファイル何冊分にも積み重なる紙の資料。そこには周波数の状況が0.02秒ごとにびっしりと並んでいた。分析チームの業務は、これらの膨大な紙のデータをExcelに入力し、デジタル化することから始まった。その上で異なる時間軸のデータを時系列に沿って一つに整合させ、欠損データがないかを確認していく。そうして初めて「使える」データにし、ブラックアウトまでの約20分間に何が起きたのかをグラフなどで可視化していった。そして別チームが立てた仮説に対し、「このデータで検証可能か」「可能ならどう集計すべきか」を判断し、必要なデータを作成。まさに地道な作業の連続だった。
2018年9月21日 結成後わずか2週間で分析・報告の場を開催
もしこの事故が、電力需要の最大化する北海道の厳冬期に再発してしまったならば、全域停電は人命に関わる大災害になりかねない。そのため、原因解明には「冬が来る前」という絶対的な時間的制約が課せられていた。チームメンバーは各自普段の業務を一時中断し、検証作業に全力を注ぐ。分析チームが急ピッチでデータを集約・可視化し、北海道電力へ出向いて不明点を解明。そしてチーム結成からわずか2週間で「第1回検証委員会」の開催にこぎつけた。この驚異的なスピード感こそ、中立機関であるOCCTOの機動力であり、使命感の表れだった。

2018年10月9日 「冬に備えよ」。シミュレーションが導いた再発防止策

検証委員会の目的は、原因究明と再発防止策の策定だ。同じ事態を繰り返さないため、冬までに実施すべき対策として、OCCTOは冬の需要期に向けた「中間取りまとめ報告」を発表。事故時に需要を遮断する仕組み(周波数低下リレー、UFR)の追加や、需給バランスを調整する発電所の運用見直しなどを提言した。さらに、演算ツールを駆使し、万が一複数の電源が同時に停止してしまった場合の状況をシミュレーション。こうした事態にもブラックアウトに至らないための根本的な対策を検証した。この検証はその後、OCCTOが定期的に行うブラックアウト検証の指針となっている。
2018年10月25日 すべてを、公開する。データに込めた透明性への矜持
このプロジェクトで特筆すべき点の一つは、徹底した情報公開だ。委員会はYouTubeで生中継され、記者会見も節目ごとに実施された。さらに、分析の根拠となった膨大な「生データ」そのものも、第3回検証委員会の開催後にExcel形式で公表。これは電力業界では極めて画期的なことだった。もちろん、公表までには地道で途方もない作業があった。なぜなら生のデータは「どの事業者が、どれだけ電気を使っているか/生み出しているか」という機密情報そのもの。もし名前が残れば事業者の利益を害する可能性がある。こうした細心の注意を払った上での情報公開、その公平性・透明性こそが、検証結果への信頼を支えた。

2018年12月12日 「当たり前」を守る使命感。部署を超えた結束が、未来への教訓を生んだ

全4回にわたる検証委員会が無事終了し、プロジェクトは終了した。「電力の当たり前を守る」。この歴史的プロジェクトは、その使命感に貫かれていた。緊急性の高い任務にあたるため、チームは時に休日返上で業務に尽くさねばならない場面もあった。しかし、「こうした非常時に対応することこそ我々の存在意義だ」というとあるメンバーの一言で、チームは決意を新たにしたという。短期間で原因究明と再発防止策をまとめ上げ、電力の安定供給という社会基盤を守り抜いた。この検証は、国内初の事例として業界全体の貴重な教訓となり、電力事業関係者の意識を一新させた。
代表メンバーからのコメント
国内初の事故に対し、OCCTOが中立・公平な立場で検証し、社会への説明責任を果たした意義は非常に大きいと感じています。部署横断で志の高いメンバーが集結し、組織一丸となって電力の「当たり前」を守るために尽力したこの経験は、OCCTOの組織力を象徴していると言えるでしょう。ここで得られた教訓を、日本の電力インフラの未来に活かしていきたいです。