市場導入の背景
2016年4月1日以降、皆さまの家庭においても、さまざまな電力会社の料金メニューを選べるようになったことをご存じかと思います。いわゆる電力の小売全面自由化です。
電力の小売自由化では、事業者間の競争をうながし、電気料金の抑制につなげることを狙いのひとつとしています。新規事業者の参入で、余った電力を売ったり、足りない電力を買ったりする電力の売買についても、ビジネスが活発化しています。また、太陽光・風力発電といった再生可能エネルギーの拡大によって、再生可能エネルギー電源が市場に投入される時間帯においては市場価格が低下し、全電源にとって売電収入が低下することも考えられます。
一方、再生可能エネルギーには季節や天候などによって発電量が変動するという課題があり、火力発電所などが需要と供給のバランスを調整しています。
これらの発電所も徐々に老朽化するため、代わりに新しい発電所の建設や建て替え(リプレース)が必要となりますが、市場価格の低下が進むと、売電収入が見込めないなどの理由により発電所の建設や建て替えを断念することが考えられます。そうすると発電所の閉鎖だけが進み、需要に対して供給力が足りなくなり、電気料金が高い状態が続いてしまう恐れがあります。「2021年度供給計画の取りまとめ」においては、容量市場の初回の実需給期間にあたる2024年より前に、一部エリアで夏季や冬季において、厳しい需給バランスが示されています。なお、電源を維持するためには人件費、修繕費といった電源を稼働するうえで必要なコストが必要となります。
【需要と供給の関係】
通常、発電所の建設には多額の費用と一定の期間(リードタイム)がかかります。例えば、火力発電所の開発計画から運転開始までに要する標準的な期間は10年程度であり、電気が足りない状態になってからすぐに準備(建設)できるものではないため、建設に踏み切るかの判断にあたっては、将来の資金回収の見通しが重要です。
【火力発電所建設のリードタイムのイメージ】
【電源投資のタイミングによる供給力の推移イメージ】
容量市場の目的
将来にわたる日本全体の供給力(kW)を効率的に確保する市場です。供給力は、「発電することができる能力」と言い換えることができます。容量市場によって以下を目指しています。
- 発電所の建設が適切なタイミングでおこなわれることで、日本における将来の供給力(kW)をあらかじめ確実に確保すること
- 供給力(kW)の確保によって電力(kWh)取引価格の安定化を実現し、電気事業者の安定した事業運営や電気料金の安定化などの消費者メリットをもたらすこと
容量市場では、将来必要な供給力を予め確保することにより安定供給を確保します。これにより、電力取引価格の安定化を実現し、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化は需要家のメリットにも繋がります。さらに、再エネ拡大等に伴う売電収入の低下は全ての電源投資に影響していることを踏まえると、最も効率良く中長期の供給力を確保するための手段であると考えられます。
また、容量市場は全国単一の市場で安価な電源から調達します。したがって、容量市場は市場参加者間で競争原理が働くことにより経済的に供給力を確保できるため、国民負担を軽減するうえでも望ましいと考えられています。
日本の電力取引市場
すでに、電力量(kWh)を取引する「卸電力市場」や環境価値を取引する「非化石価値取引市場」が開始されているほか、調整力(周波数調整や予備力)を取引する「需給調整市場」も新たな市場として開始されました。また、本サイトで解説する「容量市場」も将来の供給力(kW)を取引する新たな市場として注目されており、2020年度からオークションが開始されました。
今後、発電事業者と小売電気事業者の間では電力量(kWh)と供給力(kW)を分けて取引することが考えられ、その際に容量市場を通じてその供給力(kW)価値の一部を取引することになります。なお、これまで発電事業者と小売電気事業者でkW部分も含めた契約で電力取引していた場合は、契約内容の見直し協議がおこなわれることが考えられます。
【日本の主な電力取引市場】
各国の状況
欧州各国(イギリス・フランスなど)やアメリカなど、諸外国でも容量市場が導入されています。
日本では、電力広域的運営推進機関(広域機関)が、容量市場の市場管理者となります。
FAQ
容量市場の導入により電気料金はどうなるのか。
容量市場を導入した場合の中長期的なメリットとは。
容量市場へ参加した場合でも、他市場(卸電力市場や需給調整市場)に参加できるのか。
供給力を確保する手段は容量市場以外にあるのか。